
「認知症の母が施設に入ったので、空き家を売却したい…」そんなお悩みを持つ方が増えています。認知症が進行してしまうと、不動産売却が難しくなってしまうのです。この記事では考えられる対応策と、事前に利用できる2つの制度を紹介します。
家族が悩む「施設に入った親の家、どうする?」
ご相談をいただいた大川さん(仮名)は、90歳のお母さまが数年前から施設に入所し、自宅は空き家状態。
さらに、最近は腰を痛めて入院され、軽度の認知症の症状も見られるとのこと。
「このまま家を放っておくのも…でも売るには母の同意が必要と聞いて、困っています」とのお悩みでした。
高齢の親が施設に入った後、その自宅をどうするかは多くの方が抱える問題です。
空き家は放置すると維持費やリスクが増え、近所とのトラブルの原因にもなりかねません。
原則として代理による売却はできない
認知症になった親の自宅を売却できるかどうかは、親の意思能力の有無と、適切な法的な手続きを踏んでいるかどうかによって大きく左右されます。
「意思能力がない」もしくは「著しく判断力が低下している」と判断される場合、血のつながった子どもであっても、親の代わりに自宅を売却することはできません。
認知症の親の自宅を売却する方法

親が認知症になってしまった場合、不要になった実家を家族が処分できるのでしょうか?
ここでは、売却を考えている人に向けて、考えられる対応策を紹介します。
意思能力がある場合は委任状で手続き可能
認知症の症状が軽い場合、委任状を作成することで家族が親に代わって手続きを進められます。
ただし、実際に家族が代理で手続きを行う際には、親の認知機能の状態を客観的に証明することが求められます。
そのために必要なのが「主治医意見書」です。
主治医意見書は、親の認知症の程度や意思能力の有無を医師が評価し、書面で証明するものです。
この意見書は通常、介護保険サービスを申請する際に作成してもらうもので、家族などの申請者がかかりつけ医に依頼して取得します。
成年後見制度を利用する
親が自分で不動産を売却したり契約を結んだりすることが困難な場合、成年後見制度を利用することで問題を解決できます。
法定後見人が選任されることで、親に代わって不動産の売却や財産管理を行うことが可能です。
法定後見制度を利用するには、まず家庭裁判所に申し立てを行います。
その後、家庭裁判所による面接や審査が行われ、審判が下されると成年後見人が選任され、後見登記がなされます。
こうして選ばれた成年後見人は、親の財産を適切に管理し、必要に応じて不動産の売却手続きを進めることができるようになります。
ただし、家族が成年後見人に選ばれるとは限りません。
また、成年後見人となった後は支出の記録や裁判所への報告などの義務が生じるため、財産管理の負担が増えることを考えておく必要があります。
認知症が進む前に検討したい2つの制度
大川さんのように「母の認知症が進んで、売却の同意を取るのが難しい」という状況になってしまうと、不動産売却が難しくなってしまいます。
そのため、認知症の不安を感じたら、症状が進行する前に財産の管理を信頼する相手に任せておくとよいでしょう。
有効な対策として「家族信託」と「任意後見」の2つの制度があります。
信頼する家族(たとえば子ども)に財産の管理や売却の権限を託す制度です。
手続きをしておけば、将来的に認知症が進行しても、子が代わりに自宅を売却したり資産管理を行ったりできます。
注意点としては、いずれの契約も元気なうちに結ぶ必要があること。
なお、トラブルを防止するためにも、手続きには専門家のサポートを受けた方が安心です。
元気なうちにこそ「備え」が必要
親が施設に入った後の自宅の売却や財産管理は、多くの方が抱える終活の悩みです。
そして、認知症が進んでからでは対応が難しくなることがほとんどです。
今回のケースのように、判断力がまだあるうちに、「家族信託」や「任意後見制度」を活用することで「困った」を未然に防ぐことができます。
「うちはまだ早いかも…」と思った方こそ、まずは信頼できる専門家に相談してみてはいかがでしょうか?